1992年にデビューし、CD売上枚数5900万枚以上、30作連続オリコン初登場1位を記録したモンスターバンド『Mr.Children』を勝手に語り尽くす番組が面白すぎたのでまとめてみました。
桜井和寿の天才的な歌詞や曲の作り方を具体的な例を示しながら解説しており、ファンにはたまらない内容でした。
「セオリーを壊す不良」「ルール無用の力技」「ミスチルは困った存在」などプロから見たミスチルの本質にせまります。
※尚、本記事の[個人的感想]部分は私個人の意見。それ以外は番組の引用です。
番組詳細
番組名
関ジャム完全燃SHOW(毎週日曜23:10~)
関ジャニ∞が、毎回様々なアーティストをゲストに迎え、
一夜限りのジャムセッションやトークを繰り広げる音楽バラエティー番組
解説者
- スキマスイッチ
ミスチルとは先輩後輩の仲。ミスチル主催のフェアに参加するなど今ミスチルに最も近いアーティストの一組。 - いしわたり淳治
元SUPERCARギタリスト。音楽プロデューサーとして活躍している。番組ではミスチルを客観的に分析する。 - 杉山勝彦
乃木坂46を始めAKB48や倖田來未など様々なアーティストを手掛けた音楽プロデューサー。ミスチルに憧れて音楽の道へ。同じライブに3回行くなどミスチルとは離れられない男。
ミスチル名曲の歴史
まずはミスチルを知らない人用に代表曲を紹介。
せつない夏を歌う1stシングル
君がいた夏
92年リリースの1stシングル。
桜井が100万枚売れると確信した初のミリオン作品
CROSS ROAD
93年リリースの4thシングル。125万枚。
ミスチルの転機となった不朽の名曲
innocent world
94年リリース。193万枚を売り上げた。歌詞については色んなことに辻褄を合わせている自分の内面みたいなものを初めて出した曲だった。
誰もが聴いたことあるダブルミリオン2曲
Tomorrow Never Knows
94年リリース。「若者のすべて」主題歌。276万枚を売り上げた。
名もなき詩
96年リリース。96年シングルランキング1位。230万枚を売り上げた。
形のない愛を歌う2000年代の名曲
NOT FOUND
2000年リリース。
紅白初出場も!オリンピックのテーマ曲
GIFT
2008年リリース。北京オリンピックのテーマ曲。
桜井和寿「選手だけでなく日常を暮らす人にどう届くかを考えた」
デビュー25周年2年2ヶ月ぶりのシングル
ヒカリノアトリエ
2017年リリース。ドラマ「べっぴんさん」の主題歌。
プロが見たミスチルの功罪
功罪とは、「手柄になる点と責められる点」のこと。
ミスチルは困った存在(杉山氏)
意識しないで曲を作っても影響力が大きすぎて、「あれ、ミスチルを意識しちゃったの?」って言われることが多い。そういう意味では困った存在。
[個人的感想]
ミスチルからしてみると、いや知らんがな!って感じですよね。でももし自分が作曲するとしたら無意識のうちに似た曲を作ってしまうと思います。それだけ私の中では大きな存在です。
ルール無用!!ミスチルの歌は力技(いしわたり氏)
ミスチルの歌詞はルール無用。
通常、1番のAメロ、2番のAメロは文字数はだいたい揃っている。
例)
1A:君と見た空(7文字)
2A:夕暮れの街(7文字)
しかし、ミスチルはそこにルールがない。字だけを見たら、これどこのメロディー??ってなってしまう。
メロディーに対して文字数がバラバラなのです。
例えば、名もなき詩のAメロ部分
[1Aメロ]
ちょっとぐらいの汚れ物ならば
残さずに全部食べてやる(13文字)
Oh darlin 君は誰?(5文字)
真実を握りしめる
[2Aメロ]
こんな不調和な生活の中で
たまに情緒不安定になるだろう?(17文字)
でも darlin 共に悩んだり(8文字)
生涯を君に捧ぐ
1Aメロは13文字なのに、2Aメロでは17文字と4文字も多くなっている。
通常はメロディーがあってそれに歌詞を合わせていくが、ミスチルは歌い回しを工夫して言いたいことをねじ込んでしまう。
なので普通に考えたら文字数が合ってないので歌いづらいんだけども、一回聞いたら口ずさむことができる。それが不思議なところ、計算されているのか、天才なのか。
不規則な歌いまわしがミスチルの特徴。
中でも当時誰もが真似した早口の歌詞がこちら。
成り行き任せの恋に落ち ときには誰かを傷つけたとしても
その度心痛める様な時代じゃない
とんでもない文字数を早口でメロディーに乗せてしまうという力技をやってのけた。
しかし、このような力技はある効果を狙ったことだった。
それは、メロディーに言葉をねじ込むことでメッセージ性が強くなるということ。
あれだけの文字数なのに入ってくるのは、聴く側が「これが言いたいことなんだ!」といって受け取るから。
[個人的感想]
なるほど、的を得ていると思いました。名もなき歌の早口部分なんて、知らない人はいないんじゃないでしょうか。以前友達に名もなき詩を知っているか聞いたら、「あぁ、あの早口がある曲?」って言っていたのを思い出しました。それだけインパクトがあったのです。
ただ、メロディーに言葉をねじ込む技法についてはミスチルだけじゃなくて色んなアーティストが使っているんじゃないでしょうか。
私はカラオケによく行きますが、メロディーに言葉が合っていないと覚えづらいんですよね。初見じゃまず歌えない。で、その傾向が特に強いのが2000年以降の曲な気がします。逆に覚えやすく歌いやすいのが80年-90年代辺りの曲。1番だけしか知らなくても、メロディーと歌詞が合っているので2番も違和感なく歌える。
メロディーに対し文字数の制限を作らない⇒カラオケでは覚えにくく、歌いにくい
という側面もあると個人的には思います。ただ、アーティストは歌いやすい歌を作るわけではないので、これは仕方ないとは思いますが。
手垢のついたテーマで名曲を作れる(いしわたり氏)
ミスチルは、ものすごいスタンダードな言葉だけでも名曲を作れる
その例が「常套句」。ありふれたテーマで作られた名曲。
今日も明日もただ精一杯 この想いにしばみつく
君に会いたい 君に会いたい
何していますか 君はどう
君に会いたい 君に会いたい
愛しています 君はどう
一般的にミュージシャンは個性を出したがるもの。でも一番手に入れるのが難しい技術こそ「誰にでも分かる音楽を格好良く作ること」。
この曲は「会いたい」というこの世に一番多いのではないかというくらいありがちなテーマで奇抜な言葉を一切使わずに名曲を作り上げているのです。
ミスチルは奇抜にもスタンダードにも名曲を作り出せる。
彼らが日本を代表するポップミュージシャンであることの証明がこの曲から伝わるのではないか。
この歌詞に「常套句」というタイトルをつけたことについて、歌詞に奇抜な言葉がないから、客観的に「常套句」が並んでいるのではないかと思ったんじゃないか。
横山氏:「絶対俺やったら「会いたい」ってタイトルつけるわ」
古田新太氏:「ダサいわぁ~」
例えば西野カナも「会いたくて会いたくて」っていう歌詞をつけているが、その後に「震える」っていう奇抜な言葉をつけている。やはり平凡な言葉を使うときにはスパイスが必要。
ミスチルはそのスパイスを歌詞につけなくてもこれだけの名曲を作ってしまった。
[個人的感想]
最初このタイトルを見た時「常套句」って何て読むか分からなかったので調べた気がします。
でも実はこれも仕掛けだったんじゃないでしょうか。人を引き付けるタイトルはその曲を知るきっかけになります。横山氏がつけた「会いたい」ってタイトルだったらそこまで興味を持たなかったと思います。
頭が思い描いた演出を喉で表現できる人(スキマスイッチ大橋氏)
桜井和寿の歌い方には幅がありすぎる
曲によって歌い方を変えるのが一般的だが、桜井和寿は1曲の中でストーリーに合わせて歌い方を変えている
例えば「HERO」
Aメロ:弱い主人公
↓
サビ:ヒーローになりたいが確信を持てず
↓
大サビ:ヒーローである決意
Aメロではすごく弱い主人公がヒーローになりたいと思い始めるので喉を閉めた歌い方。そして最初のサビでは主人公がヒーローになる確信がまだ持てないのでファルセット(裏声)を使って歌います。しかし大サビではヒーローになることを決意するので力強い地声になるのです。
Aメロ(0:26辺り)
例えば誰か一人の命と 引き換えに命を救えるとして
僕は誰かが名乗り出るのをまってるだけの男だ
サビ(1:04辺り)
小さい頃に身振り手振りを真似てみせた
憧れになろうだなんてたいそれた気持ちはない
でもヒーローになりたい ただ一人 君にとっての
つまずいたり転んだりするようなら そっと手を差し伸べるよ
大サビ(4:24辺り)
ずっとヒーローでありたい ただ一人君にとっての
ちっとも謎めいてないし 今更もう秘密はない
でもヒーローになりたい ただ一人君にとっての
つまずいたり転んだりするようなら
そっと手を差し伸べるよ
日本人の発声って複式ではなく喉でしゃべってると言われているが、そういうのを歌にも使うことによって喋りかけているような雰囲気を出している。そして地声を使うことで主人公の意志を表現していると思う。
そして「タガタメ」。反戦や平和の願いが込められていると言われる名曲。
歌詞の前半は日常を切り取ったテーマからものすごい大きなテーマに最終的に広がっていく。
最初は日常の1シーンから始まり、後半になると心の叫びに変わる。最後の方は喉を潰すくらい叫んでいる。通常ボーカリストは喉を潰さない歌い方を教わるが、あえて叫ぶことで、これが伝えたい!と叫んでる。
歌がうまいとかを超えたもののような気がする。
Aメロ(0:05辺り)
ディカプリオの出世作なら さっき僕が録画しておいたから
もう少し話をしよう 眠ってしまうにはまだ早いんだろう
⇒平穏を表現
ラスト(5:55辺り)
タタカッテタタカッテ(戦って戦って)
タガタメタタカッテ(誰が為戦って)
タタカッテ ダレカッタ(戦って誰勝った)
タガタメダ タガタメダ(誰が為だ誰が為だ)
タガタメ タタカッタ(誰が為戦った)
⇒喉を潰すほどの叫び
桜井和寿は、「頭が思い描いた演出を喉で表現できる人」。だからすごく斬新だし、歌として新しいとすごく思う。
[個人的感想]
上で紹介している「タガタメ」の動画は2015年のツアーのものですが、実は私は間近で見ていて、「タガタメ」の圧倒的な感動で不覚にも泣いてしまいました。それだけ訴えるものがあるんですよね。ストーリーに合わせて歌声を変えることで心に響かせる、これには同意せざるを得ません。
そしてカラオケでもタガタメを歌いますが、気持ちが入りすぎて点数が全然取れないし、聞く人からも「すごい頑張ったね(;^_^A」って言われる始末。でも歌いきるとめちゃくちゃスッキリします。何か悩みがあったりストレスを抱えている人は、カラオケで「タガタメ」を恥ずかしがらず力の一杯歌うことをおススメします。ポイントは最後の最後の「叫び」。力の限り叫びましょう。
ミスチルのすごい作詞技術(いしわたり氏)
「タガタメ」には歌い方以外に歌詞にもすごい技術が使われている。
平和の歌ってものすごく作るのが難しい。皆知っている概念なので、道徳的・凡庸になりがち。だからこそ自分が日常と世界平和がどういう手順を通じて繋がっているのかを段階を踏んで展開していかなければいけないが、この曲は最短ルートで完璧にできている。
「抽象的なテーマをどう日常と結びつけるか」がポイント。
ディカプリオの出世作なら さっき僕が録画しておいたから
もう少し話をしよう 眠ってしまうにはまだ早いだろう
⇒自分の部屋(クローズドな空間)
この星を見ているのは 君と僕とあと何人いるかな
⇒空(パブリックな空間)
ある人は泣いているだろう ある人はキスでもしてるんだろう
⇒他人
子供らを被害者に加害者にもせずに
この街で暮らすためまず何をすべきだろう?
⇒子供の未来
最初は「自分の部屋」というクローズドな空間にいたのに、次に「空」という開けた空間になり、そして地上を見ると「他人」がいて、それを横にスライドすると「子供らの未来」になる。自分の考えから子供らの未来まで最短ルートで違和感なく繋いでいる。これはスゴイ技術。
簡単なルートにするなら、ディカプリオの出世作を戦争映画にすればいい。それをしないでこの手順を踏んでいるのはスゴイ。
桜井和寿は「日常を幸せに暮らすことが大事」と思っているので、例えば2番のサビで「明日もし晴れたら広い公園へ行こう」って言っているが、ものすごい熱量でこんな普通のことを言っている。そここそが大事なんだという手順を辿っている。
横山氏:「俺やったらこの歌のタイトル『ディカプリオ』にするわ」
全員:「だからダサいわぁ~(笑)」
音楽のセオリーを壊す不良(杉山氏)
ミスチルはJ-POPの王道を走っていると思われがちだが実は音楽のセオリーを壊す不良のようなこともやっている。
例えば「終わりなき旅」の3A(3番のAメロ)。ギターの音に注目!
3A
息を切らしてさ 駆け抜けた道を 振り返りはしないのさ
終わりなき旅は、ギターリフ(繰り返すフレーズ)がずっと続く曲で、7分の間の約97%はこのリフ。
普通POPSは曲のメリハリをつけるために、印象的なフレーズを休ませることが多い。なので先ほどの3Aも、ギターは休んでメリハリをつけるのが普通だが、リフをまったく変えずに引いている。
これはたぶん、終わりなき旅という止まらない足音を表現しているんじゃないか。
実際に桜井和寿は雑誌の取材で「曲に感動のサブリミナルを入れ込むのが技術だ」と言っていた。今言ったことかは定かではないが意図してやっている。
また、「終わりなき旅」にはもう一つポイントがある。
それは、「9回も転調している」ということ。
[意味]:曲中に突然キーを変えること
[効果]:曲を盛り上げる、景色を変える・・・など
例えば、サビに入る前
「ガキじゃあるまいし」自分に言い聞かすけど
また答え探してしまう———-【転調】———-
閉ざされたドアの向こうに新しい何かが待っていて
イントロからAメロに入る前
イントロ
———-【転調】———-
息を切らしてさ 駆け抜けた道を
など、9回も転調がある。
結局、ミスチルはセオリーよりもテーマを重視している。
20年間以上に渡ってミスチルが第一線で居続ける理由は、王道である「Mr.」の部分と、セオリーを壊す「Children」の部分を併せ持っているMr.Childrenだからこれだけ長い間支持を得続けられるんじゃないか。
セオリーを壊す → Children
[個人的感想]
転調についてですが、私はよく分かりませんでした・・・。なんとなくわかるんだけど、じゃあどこが転調?って聞かれると9個全ては分からないと思います。分かりやすいところは分かるんですけどね、別の曲ですが、例えばTomowwow never knowsの最後のサビは通常のサビよりもキーが高くなるのでそれが転調だろうなって分かるんですけど、終わりなき旅の場合は、キーがあまり変わらない箇所もありよく分かりませんでした。
ちなみにピアノをやっていた妻は分かるとのこと。音楽のセンスも関係あるかもしれませんね。私にはなかったようですが(-_-メ)
その他
- ミスチルっぽい歌のリズム
イノセントワールド「いつの日もこの胸に♪」のリズムがいっぱい使われている。例えば、Anyの「今僕のいる場所が♪」など。杉山氏はこのリズムを「ミスチル割り」と勝手に命名しているとか。
- 小林武史の存在によるアレンジ手法
最も特徴的なのが、合いの手。主旋律を補う目的で合いの手を入れることがある。通常は同じ楽器で合いの手は使わない。しかしミスチルは同じ楽器同士で合いの手をやった。例えば「口笛」のイントロ部分。シンセサイザーとオルガンで合いの手を実現させている。
まとめ
⇒歌詞をメロディーに合わさない、1曲の中で歌い方を変えるなどセオリーに囚われない手法を開発するなど音楽界に多大な影響を与えた
⇒意識しないで曲を作ってもミスチルっぽいって言われてしまう
以上、ミスチルが音楽界に与えた功罪について勝手に語る番組の紹介でした。
普段何気なく聞いていて分かっていたつもりだったのに、自分は何もわかっていなかったということがこの番組で分かりました。
たぶん感覚では分かっているけどこうやって言語化するって難しいんだと思います。そこはさすがプロだなぁと思いました。
たまには他の曲との違いや特徴を探しながら聴くのもいいかもしれませんね。
以上、それでは!