よく子供と一緒にNHKのEテレを見るのですが、なかなか興味深い番組がありました。
誰でも知っている昔話を真面目に裁判にしてしまう番組です。僕が見た会は「浦島太郎」で、浦島太郎に玉手箱を渡して老人にしてしまった乙姫様は刑務所に送るべきか?を真面目に裁判するものです。
なかなか面白いシチュエーションですよね。
登場人物
登場人物は以下の6人と1匹。
- 乙姫様(被告人)
- 浦島太郎(原告)
- 検察
- 弁護人
- 亀
- 裁判官
- 裁判員
あなたは裁判員の一人になってこの裁判の判決がどうなるか考えるという教育番組です。
シチュエーション
玉手箱によって老人にされた浦島太郎が乙姫様を訴えました。
浦島太郎に検察が、乙姫様に弁護人がつきます。そして亀は証人として法定に呼ばれて証言します。
「地上に帰る」と別れを告げた浦島太郎を、玉手箱を使って殺害しようとした乙姫を刑務所に入れるか?執行猶予にするかを考えます。
引用:昔話法廷より
裁判
昔話が題材ではありますが、現代の裁判の形と同じです。法廷に証人として登場する亀などの動物は着ぐるみですがちゃんと日本語をしゃべります。
証人尋問:浦島太郎
まずは原告の浦島太郎に対して検察側が尋問します。浦島の回答を箇条書きにするとこんな感じ。
- 亀を助けたらお礼がしたいというので竜宮城に連いていった
- しかし帰ってきてみると300年経っていた
- 竜宮城の1年が現実世界の300年なんて聞いていなかった
- しかももらった玉手箱を開けたら老人になった
ここで検察側が玉手箱についてマウスを使った実験映像を見せます。煙を直接浴びるとマウスが骨になります。
つまり、浦島太郎は風向きが良かったため老人になるだけで済んだのですが、直接浴びていれば骨になっていた。つまりこれは殺人未遂だと主張します。
そして次に、弁護側の反対尋問。弁護側の主張は以下の通り。
- 浦島太郎は、乙姫から子供が出来たことを告げられた
- それが怖くなって竜宮城から逃げ出した。(親になることや海の中で一生終えることなどを考えて怖くなったと浦島が証言した)
- 子供が出来て幸せの絶頂にいた乙姫をどん底に突き落とした
ちなみに、裁判をやるために原作にはないストーリーとなっています。まず乙姫が子供ができたなんて原作にはありませんからね。原作をそのまま読むと乙姫が悪いのですが、判決を簡単に決められないように一部脚色されています。
証人尋問:亀
※実際は着ぐるみで日本語喋ります
そして次に浦島被告が助けた亀が証人として登場します。
まずは弁護側の尋問に対する亀の回答。
- 乙姫様は痛々しいほどに落ち込んでいた。
- 浦島は私(亀)に乗って帰ろうとした
- 乙姫様は箱をあけないでって叫んでいた
- 浦島に聞こえていたはず
- 「OKOK分かってる」と軽く流して早く行けと私(亀)に指示した
- 私(亀)は玉手箱の中身を知らなかった。知っていたら行かなかった
浦島がプレイボーイすぎて違和感半端ないですが、まぁここまでしないと圧倒的に乙姫が悪くなっちゃいますからね。
そして検察側の尋問。
- 「開けないで」なんていったら開けたくなるのが人
- 本当に開けてほしくなければ「返して」のはず
- 乙姫は冷酷な人間なのでは?
ダチョウ倶楽部理論。まぁでも普通は殺されるなんて思いもしないでしょうから開けますよね。
証人尋問:乙姫
弁護側の尋問に対する乙姫の回答
- 浦島と過ごした3年間は本当に楽しかった
- ご飯を一緒に食べたり散歩したりそんな他愛のないことがうれしくて仕方なかった
- お腹に赤ちゃんができたことも喜んでもらえると思った
- 殺意を抱いたのは、浦島が地上に帰る直前
- あと1分でいいから一緒にいてと言ったら、じゃああと1分だけねと、時計の秒針が1週するのをずっと眺めていた
- 私のことを愛していないと気付いた。幸せだったこの3年間はなんだったのか
- この人を一生離したくない。生まれて初めてのこの感情を抑えることができなかった
昼ドラでありがちな展開。手に入れられないなら殺してしまおうという織田信長のような偏った考え方ですね。
そして検察側の尋問
- 浦島に裏切られた。あなたも大切な人を裏切った。玉手箱を渡す前にお腹のことを考えなかったのか。自分の父親を殺そうとした母親を子供は愛せると思うか?
- 実刑になれば刑務所の中の病院で子供を生む、そして子供と離れる。
これでもかと乙姫を責めますね。。
最終弁論
最後に検察側、弁護側、双方がまとめます。
検察側
・今回は危険極まりない犯行であり同情の余地はない。浦島太郎に甚大な苦痛を
弁護側
・本件は浦島太郎にひどく裏切られた末の犯行であり、身勝手そのもの。しかも犯行を思いとどまった。
乙姫を刑務所に送るか、執行猶予をつけるか?
番組はここで終わりです。この番組の一番大きなポイントとして、判決結果は出ません。あくまでも教育番組なので視聴者が考えてみようという趣旨です。
あなたがもし裁判員だったとしたら、どのような判決を下しますか? 考えてみると面白いかもしれません。
教材としてもすごい
この番組、実は教材として動画が全て配信されています。
現在8話まで公開されており、「浦島太郎」は6話で見ることができます。
浦島太郎以外にも「3匹の子豚」「さるかに合戦」「カチカチ山」「白雪姫」など、確かに裁判沙汰になりそうな昔話ばかりです。
個人的には判決結果よりも、乙姫に子供が出来たような「どんな脚色をしているか」が興味深いです。
そしてこのサイトのすごいところは、動画が公開されているだけではなく、学校の教材として使えるように色々工夫されている点です。
- シーン毎にあらすじが文字で見られる
浦島太郎の場合、「証人尋問:浦島太郎」や「証人尋問:亀」などシーンが切られていて、それぞれ詳しいあらすじが文字で見られます。
動画を見れない環境でもあらすじを見れば大体の話は分かるようになっています。
- 生徒用、先生用に資料があらかじめ用意されている
生徒には「事件の争点」「ある裁判員の考える判決結果」が書かれた資料が、先生用には「授業プラン」や裁判の論点が書かれた「論点表」などが予め用意されています。
これらを用いることで学校の授業ですぐに使えるようになっています。
個人的見解
個人的には執行猶予なしの「実刑」が適切だと思います。
ポイントは玉手箱。
煙を浴びると骨になるってことは、現代に置き換えると、爆弾か、毒ガスの類いです。下手をすれば浦島太郎だけではなく関係ない第三者まで犠牲にしてしまいます。
それを知って渡したのであれば罪は重いと考えます。
実は乙姫は玉手箱を誰かから渡されただけで、煙の威力は知らなかった、とかなら多少は軽くなるかもしれません。
その誰かが亀だった、、、だったら面白いんだけどw
そもそもなぜ乙姫は玉手箱を渡したのか
気になったので、この番組の話は忘れて原作を読み返してみました。そうするとやはり、乙姫様が玉手箱を浦島太郎に渡した理由がいまいち分かりません。
気になったのでネットで調べてみると諸説あることが分かりました。
実際に過ぎた時間を返す等価交換説
地上では300年(300という数字も諸説あって700とか100とかもある)過ぎているので、人間である浦島太郎はその分の歳を必ず取らなければならない。
乙姫様はそれを特殊なパワーで玉手箱に封じ込めた。
竜宮城にいる間はそのパワーで歳は抑え込めるけど、地上に出てしまうと、なんらかの方法で必ず歳を取ってしまう。
一応開けるな!とは言ったけど、等価交換の原理で必ず玉手箱は開いてしまう運命だったのです。
浦島太郎を鶴にしてしまう説
玉手箱を開けて700歳歳を取ってしまった浦島太郎を、乙姫様は鶴に変えます。
鶴は1000年生きると言われているので、残りの300年を浦島と一緒に暮らしました。(乙姫は亀なので万年生きる)
浦島が言いつけを守るか確かめる説
乙姫様と浦島太郎の絆の深さを確かめるために、玉手箱を渡した。
言いつけを守って開けなければ、また竜宮城に連れて帰るつもりだった。
玉手箱は竜宮城に戻れるアイテムだった説
玉手箱は竜宮城に戻れるアイテムで、しばらくすれば戻り方を教える手筈だった。
つまり煙はガソリンみたいなもので、エンジンを分解したらガソリンが漏れて引火した、みたいな事故が起きた。
だから乙姫は絶対開けるなと言った。(だったら最初に言っておいてよ!と思いますが…)
どうでしょうか、何かしっくりくる説はありましたか?
あとがき
なんとなく見た番組でしたが、NHKの学校教育に対する考え方を見ることができて非常にためになりました。
今は誰もが裁判員になる可能性を持っています。そのような状況になった時に慌てずに判決結果を出すためにも、この番組で考える練習をしておくといいかもしれませんね。